【後編】557kmを24時間で走ってきた【8号線キャノボ新潟→京都】

201910R8キャノボ

よしよしよし!いいぞ、いいペースだ!

ここまで200km走ってきたけど、まだまだ余裕がある!


ぼくは、国道8号線の557kmを24時間以内に走るチャレンジをしていた。

ここまでは気持ちよく走ってこれたけど、キャノボの地獄はここから始まるのだった。(前編の記事はコチラから~!)

200~300km(黒部市→金沢市)


ここまでの200kmは快走だった。

ここからもバッチリ作戦が決まっていく。


信号だらけの国道8号線を避けて、富山魚津線という旧道に入る。事前に調べていた通り、まったく信号がない。想像以上に快適に走れる。

途中フォロワーさんに迎撃していただく。kazu2020さん(Twitter:@optimo2017)、寒い中待っててくださりありがとうございます!!

こうして目の前で声援をいただけるのはうれしい。疲れも忘れて、活力がわいてくる!

富山市に入ったところで国道8号線に入り、ガンガン速度を上げる。標高200mの丘を登ったところで、石川県に入る。ここで300km到達。正直なところ、この区間は好調すぎて、特筆することがなかった。完全にルートの作戦勝ち。

しかし、ここから地獄の門番とあいさつを交わすことになる。

300~400km(金沢市→福井市)


石川県に入ってから、平均25.0km/hを下回るようになってきた。

いや12時間で300kmも走っていたのが異常なのだ。多少ペースが落ちてしまうのも仕方がない。金沢市内に入ると、信号やバイパスも増えて、どうしたってスピードが上がらないのだ。

ぼくは他の心配事があった。それは、もうすぐ13時間経過することだ。

今回のキャノボでは悪魔の時間が来ると予想していた。それが『7、13、20時間』だ。ここでは何かが起こる可能性が高い。

というのも、過去の8号線キャノボでは、この時間帯になにかトラブルが起こってきたのだ。

疲労による休憩、パンク、渋滞…そして、メンタル崩壊だ。

『7、13、20時間』この3回の時間帯には悪魔がいる。過去のログを何度も振り返るにつれて、それは確信になった。

今回もそれに当てはまる。7時間目は、空腹から思わず食事休憩を入れてしまった。そして今の13時間目。金沢市の信号の多さ、ガーミンの誘導にイライラし始めていた。

ガーミンとは、自転車用のナビやログをとってくれる機器なのだが、なんだか不調なのだ。ルート案内を担っているのだが、方向指示のタイミングが明らかに遅い。交差点を通り過ぎてから「左に曲がれ」とか出してくる。こうなると面倒だ。停車→マップ確認→正しい道を目視確認→方向転換、と手間が多くなる。

なるべく10秒でも惜しいのに、この手間は大きなタイムロスだ。ストレスだってかなり感じる。

前半は調子よかったのに…。とくに金沢市外へ抜けるルートは、かなりシビアな道を選んでいるので、この不調はかなりの痛手だ。

何度も曲がらないといけないので、結局はガーミンをマップ表示にして、自分の頭で曲がり角を判断するしかない。

う~む、ストレスが溜まってしまう。いったんリセットのためにも、休憩したい。

だが…悩む…。

身体はまだ元気だ。ここで休憩すると、時間がかなりもったいない。頭を使い続けないといけない状況にも関わらず、休憩したくないという、板挟みの苦しみを感じ始める。

迷っても仕方がない…!!ペースが落ち続けても走ろう!

一種の勝算があって、この判断に決めた。

①脳内ナビは慣れていけば、きっと負担にならない
②停止した際のデメリットが大きすぎる

②の理由が特に大きい。557kmを24時間以内に走るとなると、かなり長期的な計算が必要になる。

その計算の指針の1つに、「平均スピード」があった。

このガーミンに表示される平均スピードのことだ。

オートストップ機能をオフにしているので、停止時間を含めて平均時速を表示させていた。557kmを24時間で除せば、平均速度23.33…km/hで達成できることになる。

23.4km/hを割らなければ達成可能ペースなのだ。この数字をどうしても守りたかった。

走っているときにはほとんど変動しないのだが、止まってしまうと一気に落ち込んでしまう。

7時間目の食事休憩では、13分休憩を取ってしまい、平均26.4→25.6km/hと大きく落ちてしまった。13分の休憩で0.8km/h分だ。

もちろん底止まりするし、これだけ長距離を走っていれば、変化量も小さくなってくる。

それでも怖い。苦労して積み上げてきたものを、あっさり自分で投げ出してしまうほどの勇気は、僕にはない。どれだけ苦労しても、この数字は守る。

休まずに走り続けよう。それがぼくの決意だった。

400~500km(福井市→高島市)


キツイ、キツイ、キツイ、キツイ…。

寒さ、眠気、疲労がぼくの身体に、大きな負担を強いていた。

なによりツラいのは寒さだ。6度に冷え込む。今回の装備では10度、我慢すれば8度まで耐えられるようにしている。想定の温度を下回ると、大きなダメージとなり身体をむしばむ。

とくに、胃腸の調子が変だ。

違和感を感じる域を超え、いまや痛い。なんだか不穏な予感がする。

胃腸の痛みには、3回目の挑戦で大いに苦しんだ。あのときはカフェイン錠を飲んでから、調子がおかしくなった。胃のなかが荒れて、腸の動きが止まってしまった。激しい痛みを抑え込みながら、無理をして走り続けた。補給食も一切食べられず、味噌汁だけで300kmを走った。しかし、身体の限界を迎えて、まったく動けなくなってしまった。

「どれだけ痛みを強くしても、コイツは走りをやめない」と判断した身体が、強制的にシャットダウンをかけてきたように感じた。精神じゃ身体を超えることは出来なかったのだ。

今回の対策は、カフェインを取らないこと。

途中の自販機で買ったコーラを唯一のカフェイン剤として、ここまで走ってきた。しかし寒さも相まって、胃腸の調子がおかしい。ここは食べるのをやめるしかない。胃腸を少しでも休ませよう。

ただこの現象は、悪いことばかりではない。なぜか…?

ここからしばらく、無補給でも空腹を感じず走れるゾーンに突入できたからだ。

さすがに前回のような『300km無補給』とまではいかないだろうが、相当な距離を無補給で走れるはずだ。これは大きなアドバンテージとなる。

わざわざ補給食を食べる手間もないし、途中でコンビニに買い出しをする必要もなくなる。身体を痛めつける代償に、『無補給ライド』の恩恵を得られるわけだ。悪魔の契約だ。

過去の失敗を活かそう。大変な目に遭っても、その裏にはなにかヒントはあるはずだ。

ちなみに過去の失敗を、今回は踏まえて対策している。1回目の挑戦では脳の疲労感、2回目はパンクによって途中リタイヤしている。今回の対策は、頭を空っぽにする時間を作ること、整備を完璧にして、替えのタイヤも2本持つことだ。いまのところ功を奏している。

よしよし、いいぞ!

できるだけ対策しておく。そして本番でトラブったらポジティブに考えることだ。


真っ暗な道を走ると、気持ちまで暗くなってくる。普段はナイトライド大好きなのに。

どれだけ走っても、ゴールがまだまだ遠い。557kmも走るだなんて無謀すぎるんじゃないか…。

いや冷静に考えよう。半年前、四国一周で1,000kmも走ったじゃないか。1,000kmも走れるんなら、557km程度なんて簡単なことだよ!(あのときは72時間で1,000kmを走ったので、ここまでハイペースじゃなかったけど)

きっと大丈夫だ。1,000kmに比べたら、557kmなんて短い!!行ける!!!

大きな数字を、より大きな数字で比べることで、距離感覚をバグらせる。

真っ暗な道でしばらく気づかなかったが、左目がほとんど見えなくなっていた。景色が白くぼける。この現象は3回目の挑戦でも起きた。カロリー不足かつ睡眠不足でこれが起きるんだろうか?

なんとなく考察してみる。

「目に入ってくる情報量は莫大で脳で処理しきれなくなっているのではないか?脳もかなり限界を迎えているので、少しでも負担を減らすために、片眼だけ見えないようにしているのでは…?」

そう思うと合点がいく。

右目だけはくっきり見えている。もし右目がすこしでもおかしくなれば、すぐに中止しよう。それまでは精一杯頑張ろう。もしかしたら左目が、一生このままかもしれないけど。(とは言いつつ、この挑戦は終わって、しばらく休憩すれば左目の視界は元に戻った)

「大丈夫、将来の自分が何とかしてくれる」そう思ったら、何も迷うことはなかった。

福井の海岸線を一体どれだけ走ったことだろうか。ぼくの目にあるものが見えてきた。七里半越峠だ。


福井県と滋賀県の県境にある峠。標高400mもあり、今回最大の難所だ。

平地でツラすぎて足なんて回らないのに、さらに頑張らばらなくっちゃいけないだなんて…。くっそう。ツラいなぁ、ツラすぎる。

いざ登りだすと、あまりの斜度に泣きたくなる。いや実際には急坂じゃないけど、疲れた身体には壁に感じてしまう。くっそ~~~!

「でもここの峠は誰だって苦労するんだ!大丈夫だ」と自分を鼓舞する。

がんばれ!自分!!

思いの強さだけじゃ、絶対に達成できない。

いくらメンタルが強くっても走り切れない。身体が強いだけでも駄目だ。

走り切れるプランニング、普段の走り込み、厳選した装備、そして挫けない気持ち。

どれもが高いレベルで備わっていないと、決して達成できない。それがキャノボだと思う。

諦めるもんか…


目の前に「滋賀県」の県境看板が見えた時には、思わず泣きそうだった。

あぁ…!長かった…!!

気づけば太陽も昇り、あたりは明るくなっていた。暗い暗い道はもう終わったんだ…。


峠を越え、朝日に輝く琵琶湖が見えた時には、ぼくの気持ちも晴れ渡るようだった。

ついに滋賀県に入れたことを実感するのだった。

500~557km(高島市→京都市)


琵琶湖一周のサイクリングルートを走る。まったくの平坦の道でずいぶんと気持ちがラクになる。

500km以上を走ってきたのに、まだゴールができない。今回は作戦上、北陸の市街地を回避しているので、15kmほど遠回りしている。このツケが回ってきた。

こう考えてしまうと、挫けそうになる。

充分に頑張ったのに、まだゴールができないだなんて…。

早く走り切ってしまいたいという思いからか、何度も距離を確認してしまう。1kmぐらいしか進んでいないのに、頻繁に見てしまう。

まだか、まだか…気がはやる。

思考もまとまらず、この苦しみから早く解放されたくって仕方がない。追い抜いていく車も、かなりすれすれで走っていくのが多い。明らかに「ビビらせてやろう」とギリギリをすり抜けていく車にも何度も出会う。

メンタルがきついときには、心がささくれだってしまう。くっそ…。

それにしたってツラいと感じるレベルが尋常じゃない。「もうすぐゴールだから、耐えてしまえばいいんだ」と前向きに考えても、一向にツラさは軽減されない。

なんでこんなにツラいんだ…考えろ、考えろ…。

…はっ!!

ご飯を食べていない!!

当たり前なことに気づく。一体いつから食べていないんだ。記憶が定かではないけど、おそらく8時間ぐらいは、ほとんど食べていなかった気がする。ブラックサンダーを3個ほど(300kcal)は食べたような…。

完全にカロリー不足だ。寒さと疲労にやられて、まったくお腹が減っていなかった。

いまでもお腹はすいていないけど、口に無理やりブラックサンダーをねじ込む。食べろ、食べろ!そして、走れ!!!

糖分を補給すると、思考がクリアになる。

いままでどれほど靄のかかった頭で考えていたことだろうか。身体ぜんぶが痛いことに、やっと気づく。痛みを抱えて走るほど、ストレスなことはない。ペダリングフォームを修正して、痛みを緩和する。

踏みやすくなり時速も上がる。

行ける!行ける!

気持ちも身体も上向いてきた。すこしの補給で急激に体調がよくなる。自分自身に我慢させすぎていたなと反省。

しかし、最後までラクになれないのがキャノボのツラいところだ。

ボトルに水がない…。

あと1口分しかない。「水を我慢しなきゃ」と思うと同時に、一気に喉が渇いてくる。水分不足が身体が気づいてしまったようだ。

惜しいけどボトルの水を一気に飲み干す。このままじゃ危ない…!

自販機どこだ…どこだ…!こうして探しているときに限って、自販機は現れてくれない。すぐ隣には、飲み切れないほどの水を湛えた琵琶湖があるってのに…まさか水不足で悩むとは。

自転車を止めてコンビニを探す手間さえ惜しい。スピードは緩めず、最高速度で駆け抜ける。

次第に、口の中から変な味がするようになってきた。小さな苦みを断続的に感じる。

「あ~、これはヤバい…脱水状態だ」

睡眠不足、休息不足、栄養不足、さらには水分不足ときたもんだ。不足してないなんて、運動量ぐらいなもんだろう。どれだけの負担を身体に強いているのか分からない。

でも大丈夫。

本当に身体が限界を迎えれば、まったく動けなくなるのをぼくは身をもって知っている。無理を押して走り続ければ、次第に動けなくなり、指一本さえ動かせなくなってしまう。

それと比べてれば、まだ元気に身体は動いてくれるんだから、余裕はあるはずだ。

だから、大丈夫。

「大丈夫。身体が動いている限りは大丈夫。限界なら身体がストップをかけてくれる」

ただそれだけを思う。「将来の自分が何とかしてくれる」と信じて、20時間前の自分たちはここまで走ってきたんだ。その期待に応えるときが今だ。

長い時間、耐えてきたと思う。

ついに自販機を見つけた。


キャンプ場の敷地内にあったけど、管理人さんに声をかけて購入させていただく。

朝早くに様子のおかしい自転車乗りがきて、管理人さんはさぞかしビックリしたと思う。

ぐびり…あぁぁぁああああ!うまぁぁああああああい!!

最高だ、生きている実感を腹の底から感じる。息を吹き返した。

ボトルにも詰めて、再出発する。ほんとうによかった。

カロリーも水分も補給できて、身体の調子がどんどん良くなる。現実的に「24時間切り」ができることが見えてきた。残り2時間で36km。行ける、これなら絶対に達成できる。

ここから先は交通量も増える。事故を起こさないことには絶対に避けたい。細心の注意を払って、大津市に到達する。


のこり14km!まだ1時間も残っている。

心の中でガッツポーズをする。琵琶湖に別れを告げ、京都方面へ舵を切る。100m分登ると、京都府へ入れた!もうゴールが近い…!

県境看板からは一気にダウンヒル。ここまでため込んでいた位置エネルギーを開放して、ガンガン速度を上げる。


うおおおおお!!京都の市街地に入ったぞ!!

もうすぐだ…もうすぐだ…!

平均7%のラストの登り坂を気合でクリアする。

見えた…!あそこだ!!


烏丸五条交差点だ!!!

ここが国道8号線の終端の地だ。この看板を見た途端、背中がブルルと震えた。

報われた…いままでの苦労がすべて報われた…。


交差点内にある時計塔下で記念撮影。

タイムは、23時間39分。

やった…ついにやった…!ふぅーー、ようやくひと息つくことができる。

あたりを見回すと、足早に通行する人たちや、交通量の多い道路がある。ああ、いつも通りの京都の町だ。

1人、静かに感動している。

視界の景色がゆっくり揺れる。世界から音が消える。体の痛みを感じない…あぁ…長かったな。ほんとうに長かった。

この8号線キャノボは4回目のチャレンジだ。初めてのチャレンジから、2年半もかかってしまった。

ここまで来るのに、どれだけ悔しい思いをしただろうか。途中リタイヤして、土のう袋にくるまって朝を迎えたこともあった。胃腸が痛すぎて、福井県の山の中で動けなくなってしまった。朝4時に通りがかったおっちゃんにめちゃくちゃ心配されたっけな。

たくさんの失敗を重ねて、たくさん対策を練ってきた。それでもぼくは失敗をした。

うまくいかなくて当たり前。ぼくの実力じゃ絶対に達成できない。もう諦めようと何度も思った。

だけど、数々の幸運に助けられて、24時間以内に走ることを決めた。決心してからは、ぼくはあきらめなかった。ぼくはぼくの立てた目標を達成したかった。

そして、達成できた事実が、いま目の前にある。

これまでのたくさんの失敗が、達成への道を繋いでくれた。

失敗、それこそが一歩目だった。


あぁ、最高に楽しいチャレンジだったな!!

ゴール後


Twitterでもたくさんのお祝いの言葉をもらった。ほんとにいつもありがとうございます…!


そしてそのまま祝勝会をあげることに。なぜか遠方から来ていた母と親せきが合流して「お疲れ様~!ごはん行こう!」と誘ってくれたのだ。

疲れた胃腸ではたくさん食べられなかったけど、最高においしいご飯をご馳走になった。

こうしてぼくのチャレンジは終わりを迎えたのだった。

睡眠は一切なし、休憩は食事13分の1回のみ。自販機には5回立ち寄ったけど、それ以外は止まらなかった。

休憩1回で24時間走り続けるのは、なんともきつかったけど、こうしていい成果を生んでくれた。

いやぁ、面白かったな。もう2度とやらないけど、最高に楽しかった。

無茶ライドってのは、楽しい!!!

おわり。

過去のチャレンジの記録も、ブログにまとめているよ!(1回目2回目3回目

おまけ

この挑戦の様子を、YouTubeにもアップしているので見てみてね~!

オススメのギアとか補給食とか。

今回のルート紹介