日本海に沈む夕陽を、標高1000mから眺めてきた【鳥海山】

202005鳥海山

あ、日本海を見にいきたい。

ふと、そう思った。うん、いいね!久しぶりに行ってみよう。COVID-19のこともあるので、県内ツーリングとしよう!

土曜日の朝。たっぷり睡眠をとり9時半起床。いそいそとツーリングの準備を進める。

とは言っても、日帰りなので輪行袋とモバイルバッテリーぐらいしか荷物がない。財布、スマホ、カギはサイジャのポケットにIN。

10時。

いざ、行くぞ!日本海!!


ルートはシンプル。山越えして100km走るだけ。

軽やかに回るホイールにいざなわれて、バイクを進める。心まで軽くなっていくようだ。普段から走るコースがなんだか輝いて見えるから旅はおもしろい。


普段見えていないものが、たくさん見えるからだろうか。

1時間走るとお腹が空いてきた。首尾よく見つけたラーメン屋さんにふらっと入ってみる。

半チャンネギラーメン!

うん、おいしい!昔ながらのシンプルな醤油ラーメンだ。出汁の香りがよく立っていて、自然にスープをするする飲んでしまう。優しい味で好きだ。

「テキトーに入ってみても、おいしいラーメンが食べられる山形はやっぱり麺文化なんだよなあ」なんて思っていると、ラジオがぼくの注意を引いた。

ラジオ「え~今日は良く晴れていますね。酒田市も遊佐町も、いまはまったく雲もなく、日本海がキレイです」

どうやら地元放送のラジオのワンコーナーのようだ。脳内で地図を広げてみる。

酒田市も遊佐町も晴れているのか…。

ん…?遊佐町???

遊佐町といえば、鳥海山がある町じゃないか!“庄内富士”とも冠される名峰で、ものすごく美しい山だ。
しかも、先のラジオでは『雲がない』と言っていた。

なんだって…!!!

脳内に電流が走る。これは千載一遇の大チャンスなんじゃないか???

ぼくがここまで興奮するのにはワケがある。鳥海山といえば、雲隠れする山なのだ。


過去10回ほど見に行ってるが、晴れているのなんて2度ほど。ぼくが知る限りでは、雲をかぶっている確率のほうが圧倒的に高い。

もしかして、完全覚醒鳥海山を見れるのでは!!!

よっしゃ、『日本海and鳥海山ツーリング』に変更だ。そうと決まれば、行動に迷いはない。ラーメン屋さんを飛び出して、鳥海山方面へ舵を切る。

ツーリングでは生の情報を大事にしてるけど、まさかラジオからいい情報をゲットできるとは思わなかった。

ひらけた場所に出ると、

おおお!鳥海山が丸見えだ!!やはり雲がかかっていない!ラッキー!

写真では近くに見えるけど、80kmぐらい先にある。巨大すぎて遠近感が狂うやつ。夕方までにつければ、“ある挑戦”ができるので焦らずに行こう。まだ5時間ぐらいの猶予はある。


それにしても天気も景観も素晴らしい。

田植えされたばかりの稲、どこまでも広がる空、山をそよいでいく風…。田舎の良さがギュッと詰め込まれている。山形に住み始めて3年目になるけど、「田舎の暮らしってすごく贅沢だなぁ」なんて思うようになった。美しい原風景の中に、自分自身も溶け込み、自転車で駆けていける。その瞬間は本当に気持ちがイイものだ。


進行方向には、鳥海山が待ち受けている。

どうにかいい写真を撮れるポイントはないものかと、考えながら走る。交通量がなくて、自転車を立てられて、一直線の道路の先に鳥海山があるような。そんなポイントはないものか…。

あ、ここいいんじゃない?…ぱしゃり。

おおぉぉ!?これ、いいぞ!!!

ひとりでニンマリ笑ってしまう。想定していた以上の写真だ!!!

あまりにも被写体が良すぎる。2000mを越える独立峰ってのはかっこいいんだ。

ふい~、ちょっと休憩。

夏とコーラの相性は異常。

気温は28℃。すでに2Lの水を消費していた。ボトルは2本にすべきだったかな。まだ身体が暑さに慣れていないので、無理せずいこう。

ふっ、ふっ、ふっ。息を切らしながら山を越える。

どこまでも坂が続いていくような、奇妙な錯覚を覚える。でも足を止めなければ、きっと目的地にはつけるはずだ。汗を流しながらペダルを回す。

ついに遊佐町入り!!

ここまでで100km!

暑い中、頑張って走ってきた。でもご褒美を眼前にとらえた瞬間には、疲れなんて吹き飛んでいった。

鳥海山がめっちゃキレイなんじゃ~~~!!


残雪と新緑のせめぎあいが、推しポイント。季節の移り変わりを感じられるね。

鳥海山の解説を簡単に。
山形県と秋田県に跨がる標高2,236mの活火山。東北地方の中では、燧ヶ岳(標高2,356m)に次いで2番目に高い山。裾野を日本海に浸した独特な地形を保っているのが特徴。

ぼくが大好きな点は
・標高が高い
・自転車でも1000mまで登れる
・ふもとが日本海に浸かっている
・なにより造形が美しい

もう…なんて言えばいいんだろう。あらゆる語彙力を駆使して、鳥海山を表現してみると、「最高の山だ!」としか言えない(語彙力とは?)

さあ、登ってみようじゃないか。大好きな鳥海山を登ってみよう。

“ある挑戦”をする条件は揃っている。雲がない鳥海山、冬季通行の解除、傾き始めた太陽。

日本海に沈む夕陽を、標高1000mから眺めるぞ!!

とんでもない挑戦だ。世界広しといえども、こんな芸当ができるのは鳥海山ぐらいしかないぞ。

時刻は17時半。日の入りは18時59分だ。
ぼくの脚力では1000m登るのに1時間あれば充分。撮影時間も加味すると、ドンピシャで間にあうはずだ。

さ、ヒルクライムオン!!

ふん!ふん!ふん!!

力いっぱい踏み込んで高度を稼いでいく。しかし、思うようにペースが上がらない。額に汗をかき、力は緩めてない。ざっと計算してみると7~800m/hのクライムペース。これは遅いぞ!!

というのも、ここまでの100km…

全部逆風だったからね!

もう脚力なんて残っちゃいないよ!!ぼくはパワー系じゃないので仕方ないけど悔しい!!

ここからは太陽とタイムアタックだ。

太陽が沈むのが先か、ぼくが登り切れず沈没するのが先か!!

下手したら木々の隙間から夕陽を拝むことになってしまう。なんとかして木が生えていない高いところまで登りたい!

補給食を2本頬張りながら、ヒルクライムを続ける。

なんとか間に合ぇえええええ!!!


どどん…!!

ぎりぎりだが間に合った!!太陽よりも速かったぜ!!!

目の前にはとんでもない光景が広がっている。はるか眼下には海岸線が伸び、その向こうには今にも沈みそうな夕陽。その夕陽だって、ぼくの目線の下にあるのだ。まさか太陽を見下ろす日が来るとは!!

急ピッチで撮影の準備をする。自転車を配置し、絶好のスポットを探す。ぱしゃり。ぱしゃり…。素晴らしい写真がたくさん撮れた。ここからは標高1000mの薄暮の世界を、写真で楽しんでください。

シャッターを切り終わった後は、ただただ立ち尽くしていた。

これが絶景だ。想像を絶する景色…だから絶景だ。いまこの場で見たからこそ伝わる自然の美しさに圧倒されていた。感じたことのないような感動がぼくを包んでいた。

あぁ、生きていてよかったな。

まるで死ぬ前のようなセリフが脳内に浮かんだ。一生に一度だけでも、一目だけでも、この景色を見れたことに大いに価値を見出していた。

自然に飲み込まれた不思議な体験だった…。


空が完全に暗くなる前に、下山完了!!

1000mダウンヒルで握力も死んだので、全筋肉が終わりを告げた。

その後は電車で帰ろうと思ったが、20時前ですでに終電がなく、そのまま酒田市のホテルに宿泊!次の日は、中トロ丼に舌鼓を打ち、存分に海を眺めて、100km漕いで家に帰りましたとさ。

たった31時間だったけど、一生忘れられない旅ができるから、自転車は面白い。

次はどこに行こうかな。

おわり。