国道6号線キャノンボール。
自転車で24時間以内に520kmを走ろうというチャレンジ。かなり無謀な挑戦だ。しかも今回選んだのが
グラベルロードバイクという、未舗装路向けのバイクだ。もう無茶なことばかりだ。
だけど、どうしてもやりたい…自分の力試しもしたいし、グラベルロードで500km以上を走れるのか気になって仕方がない…好奇心を抑えられず、このチャレンジは始まった…!
仙台を出発して、東京がゴール。その中間地点までやってきた。
ここは茨城県の大洗町。
ちょうど中間地点の260kmまで走ってきた。
この時点で10時間42分。残りは13時間18分、かなりの好ペースだ。24時間以内の達成が見えてきた。
ペースはいいが、身体はかなりボロボロになってくる。信号待ちがあれば、積極的にストレッチをする。
停車時間の間に、Twitterで現状報告をしたいが、どうしてもストレッチを優先させてしまう。疲れる前にストレッチをしておけば、疲労も溜まりづらいので、先行投資だ。特に痛みが出やすい肩や首、背中を重点的に。
風向きがずっといい。ずっと南下ルートなので、風向きがハマってずっと背中を押してくれている。なるべくペースと体調を崩さないように淡々とペダルを回していく。このあたりの道は走ったことがあるので、安心感がある。
「補給、どうしようかな」とすこし悩む。
携帯している補給食だけでやり過ごすか、コンビニ飯をしっかり食べるか、決めあぐねていた。時間短縮を考えるなら、補給食一択だ。しかし、まだ勝負は13時間も残されている。
お腹は空いていないが、コンビニ飯を目の前にしてしまえば、一気に空腹モードになるだろう。
うん、決めた。コンビニ飯を食べよう。
タイミングよく見つけたセブンイレブンに滑り込む。
この後のコンビニストップは必要なくなるぐらいの補給食も買い込んだ。
牛丼に温泉卵を2つトッピングした、温玉牛丼だ!
これがうまいの、なんのって!コンビニ飯を選択して、大正解だ!お腹に暖かいものを入れると気持ちも上向いてくる。
さて、リスタート。
305km地点、鹿嶋市。時刻は、夕方6時。世間は帰宅ラッシュだ。
トラフィックバトルが勃発している。焦っても仕方ないので、信号に合わせてゆったり進んでいく。
300kmを超えた…ここからが鬼門だ。
とくに300~400kmの区間は、何とも精神的にツラいものなのだ。
「半分走ったという達成感」と「まだ半分も残しているのか」という思いが、せめぎ合って、義務のように走ることになる。
距離を見ても進んだ気がしない…。「なんでこんなことやっているんだ」と冷静になってしまう。
ネガティブになっても仕方がないので、「着実に…この1kmを大切に走ろう」と心に決めて、ペダルを踏みこんでいく。
しかし、状況は味方し続けてくれている。
日が沈んだというのに、まだ強烈な追い風がぼくの背中を押してくれている。トラフィックバトル区間も抜け、車が徐々に減っていくのに合わせて、スピードはぐんぐん上がっていく。
神栖市を抜けると車をほとんど見ないほどになった。好きな曲を脳内でリピートさせて、スピードを維持していく。風はますます強くなっていた。
350km地点、銚子市。
銚子市に入った。ここで楽しみなことが一つあった。
それは房総半島最東端の、犬吠埼灯台を訪れることだった。
まっしろで凛としたたたずまいがカッコいい灯台なんだ。
時刻は20時をまわったところ。
誰もいないであろう灯台をバックに、自転車を撮るのが楽しみで仕方なかった。無味乾燥になりがちなたった1人だけのチャレンジ。そこにアクセントをつけて遊ぶ。
灯台に近づくにつれて風向きがめちゃくちゃになってきた。風が巻いていて、風向きが安定しなくなっていた。
事前に設定したルート案内通りに、ハンドルを切る。
ん?
ここ、どこだ?灯台は???
まわりを見渡すと、遠くに灯台っぽいものが見える。
地図で確認すると、灯台は通り過ぎてしまっていたらしい。ルート設定をミスっていた。いまさら戻るのも時間をロスするだけだ。
泣く泣く諦める…。夜の灯台を見たかった…くぅ~~。また訪れてみればいいじゃないか、と自分を励まして自転車を前に進める。
しかし、ここからは風が味方をしなくなってきた。
北から流れてくる風は、房総半島の最東端にぶつかり、風向きをでたらめにする。
「くぅ…風がアゲインストか」少しめげてくる。
「アゲ!アゲ!アゲインスト!…アゲ!アゲ!アゲインスト!」とくだらない言葉が脳内をリピートする。こんな掛け声でも、テンションを自ら上げるしかない。
小さいなアップダウンを乗り越えたところで、空気圧が下がっていることに気づいた。荷重を掛けたときに、前輪の動きが柔らかい。また空気を入れたいけど、なかなかタイミングがない。
いまは目の前の走りに集中したいし、どうしても気になるなら空気を入れてあげよう。
もう1つの問題…トップギア3枚ばかり使っていることだ。
フロントギア40T、リア11-42Tの構成なので、どうしてもトップ側を酷使してしまう35km/h以上を出すなら、ケイデンスが上がりすぎて脚がツラくなってくる。トップ3枚しか使えないので、ピッタリのギア比を選べず、パワーを過剰に掛けながら走ることになってしまう。
機材面ではハードなチャレンジだ。平坦仕様のグラベルロードにセッティングしたとはいえ、やはり500kmライドには不向きだ。いくら鼓舞しようと、気持ちは下向いてくる。
いや…!
ツラい時は自分を客観視しよう。
「これが人生でマックスで、ツラいことだとしたらどうだろう?」と自分に問いかけてみる。
「人生でマックスにツラいことだったら、まだまだ耐えられる」なぜかそう思えてしまう。脚が疲れ切っていたって、首や肩の筋肉がパンパンに張っていたって、いつまでも続く倦怠感だって、全然平気だ。まだまだ耐えられる。
「これが人生でマックスで、ツラいことだとしたらどうだろう?」ふっと疲労が消える魔法の言葉のように思える。
ひたすらそんなことを思って、自分の応援団になりきる。
400km地点、白子町。
ようやく魔の300~400km区間を終えた…ここから先は精神的にグッと楽になる。後100kmちょいを走れば、このチャレンジも終わる。
ここからは千葉県の内陸側に入る。
進行方向を北西に向けると…
ババババっ!!
強風だ!
ここまで南下だけをしてきたがここでようやく、西へ舵を切った途端、向かい風が襲ってきた。
もう22時を過ぎているのに、風は一向にやまない。このとき、3~4m/s(10.8~14.4km/h)もの風が、真っ向から吹いていた。
仕方ない。ここまで400kmが強風の追い風という、かなりの好コンディションだったんだ。残り120kmぐらいは、逆風を受けたっていいじゃないか。
風に抗っていると、
ぽつぽつ…
くぅ!!雨が降ってきた!
「いやに早いな…!」と口から漏れる。予報よりも6時間も早く、空がぐずり始めた。「せっかく睡眠時間を削って、スタート時間を4時間も早めたのに…」と泣き言も言いたくなる。
いや仕方ない、これも受け入れよう…!
降水量1mmにも満たない断続的な雨に耐えながら、ホイールを回す。
440km地点。
このコース、最大のピークを迎える。
標高120mほどの名もなき峠。そう長くないヘアピンカーブを5つほど曲がるだけでクリアできてしまう、小さな峠だ。最大斜度だって8%ぐらい。
いつもの足なら全然大したことがない。…だが、440km走った身体で登るには1500m級に見える。
ダンシングしたいが、身体を持ち上げられない。踏んでも踏んでもスピードが出ない…たった120mを登るだけなのにやたらと時間がかかる。
あぁぁああ…!!
全力を出し切って登り切ったところで、声が出る…!
良かった…ほんとうに良かった…これで最大の難所が終わった…。あとはペースを維持して走っていけば、24時間以内ゴールができるだろう。
勝ち筋がようやく見えてきた…。下りきって、ほっとしたところで…
ぐぅわぁああああ!!大粒の雨が降ってきたぁあああ!!
くっそう!!!なんでこのタイミングで!!
残り55km…まだまだ負け筋が残っていたとは…。泣きたくなる…いや。もう泣きたい…。
相変わらず逆風も、手を緩めてこない…。
はぁ~~、もうダメかもしれない。
レインウェアをもっていない僕にできることなんてない。しっとりと濡れていくウェアから。寒さを感じるようになってきた。このまま走ったって、体力を失っていくだけだ。
もう撤退しよう…。
「これが人生でマックスで、ツラいことだとしたらどうだろう?」魔法の言葉が、頭の中に浮かぶ。うん…、もう少しだけ頑張ろう。
「これ以上、身体の冷えが悪化したり、メンタル面に余裕がない時には、撤退しよう。」
即席のルールを作る。これだけの線引きは守ろう。家に帰るまでがキャノンボールなんだから。
寒さに震えながら、ゴールを目指す。諦めるのはもう少し先になりそうだ。
気づけば、看過できないほど空気圧が下がっている。止まって空気を入れたい…だが、いまはそれどころじゃない!!
いけるところまで全力を尽くそう!深夜のトラックが水を掻きあげている様子を見ながら、そんなことを思う。
480km。
千葉市に入ってから、全く進まなくなってしまった…!
信号の数が段違いに増えた。1kmがこんなにも遠いものか…。
走っては止まり、止まっては走り出して…。すでに距離感覚などとうの昔に忘れ、痛みに耐えながらペダルを回すだけの生き物になり下がった。
雨は小雨に変わってきたが、相変わらず靴がびっしょり濡れていて、冷たかった。
船橋市。
引用:GoogleMap
「…フォロワーさんのアドバイスに従っておけばよかった」そんな後悔が押し寄せてくる。
みっしり密集したトラックが大蛇のように列になって、路上をカッとんでいった。信号の色が変わるたびに大蛇がやってくる。はねられるんじゃないかとひやひやする。
「時間帯にもよるが、湾岸道路はトラック多く危険なのでおすすめはできないですよ」とわざわざTwitterで、フォロワーさんが教えてくれていた。「深夜3時に通過なら問題ないだろう!」と判断して、湾岸道路をチョイスしてしまった。これが大失敗…!
路上はかなり危ないので、歩道をゆっくり進む。いつの間にか500kmを超えていた。
湾岸道路から県道242号に入ってしばらくすると
見えた!旧江戸川だ!
あそこを超えれば東京都に入れる!あと10km!
深夜4時の東京と言えど、まったくペースは上がらない。焦らず事故らずに行こう。
どうしても水が飲みたかったので、信号待ちしている横に自販機があったので、さっと水だけ購入する。安心したとたんに、自分の喉がカラカラだったことに気が付いた。
後3km…。
終われ!終われ!終われ!
何度願ってきただろう。ウェアとシューズは冷たく、空気圧の低いバイクも思ったように進まない。足首が捻挫したように痛いし、首や肩は「痛い」の域を超えていた。
だが終われる!このツラかったチャレンジも、もうすぐで終われる!
あれだ!ゴールの日本橋が見えた。
ラストの信号が青になった途端に、グッと踏み込んでスピードを上げる。
ゴール直前。急遽駆けつけてくれたKAZさんがカメラを構えているのが見える…!
あああぁあああぁああああ!!
ゴール!!
うぉおおおおお!!!
やったぁああ!!無事にゴールできた!!!
急いでタイムを確認する。
520km。23時間35分。
やった!!24時間以内に達成できた!!
無事に終われてほっと一安心。いやぁ、きつい戦いだった。
過去の8号線キャノンボールほどはツラいものではなかった。前回よりも40kmも短く、ギリギリ時間との戦いではなかった。時間に余裕があり、メンタル面がとても楽だった。
しかし、前日の睡眠時間が3時間だけで挑んだ今回のキャノンボール。
時間にはたっぷり余裕があるが、脳という臓器の限界を感じた。脳に疲労を感じ続けながら、一刻も気持ちを緩められないのは、脳にどんどん負担をかけていて、進むほどにツラくなっていた。脳はメンタルと臓器の2面性を持つのもだと確信した。
その後は、KAZさんの車に自転車毎ピックアップしてもらい、
KAZさん宅で、ゆっくりご飯とお風呂を頂いて、眠りにつかせてもらった。
こうして、思いつきで始まった「国道6号線キャノンボール」は、初挑戦ながら無事に達成という期待以上の結果が出た。
今回選んだバイクは、グラベルロードバイクだった。
もちろんピュアなロードバイクで走った方が、勝機があるのは分かったいた。けど、自分で考えた「グラベルロードでのファストロングライド」という矛盾した遊びをやりたかった。
その分、作戦がハマり、太いタイヤゆえの路面ギャップの緩和や、ハンドル位置が高めな設定ゆえの楽なポジションが取れたことも達成できた要因だと思う。
もうキャノボはやらないと思うけど、こうして自分の限界に挑む遊びはやっぱり楽しかった!
このチャレンジの様子を、動画にまとめてYouTubeにもアップしているので、そっちも見てみてね!
よりリアルな挑戦記が見れるよ。
おわり。