【中編】四国一周1000kmを72時間で走ってみた【1000kmゆるTT】

1000kmゆるTT

ぼくは意を決してさとるくんへこう伝えた。

「さとるくん無理ならここでリタイヤしてね。俺は一人でも走るから。無理ならリタイヤしてね」

300km地点。ぼくは決別の言葉を告げた。


この記事は、四国一周1000kmライドを走ってきた話の“中編”です。前編は以下のリンクから読んでみてね。
①準備編
②前編
③中編←イマココ
④後編


300~400km(佐田岬→宇和島市)


感情的に突っ走った上に、「もう自転車をやめる!」と叫んでいたさとるくん…。まだ700km残っている。とてもじゃないが、最後まで一緒には走れない。彼はもうメンタルブレイクしている…。

そう思ったぼくは決別の言葉をさとるくんに告げた。

朝7時半のコンビニの駐車場。目の前の空は、鮮やかな水色へ移ろっていた。ぼくはさとるくんの顔を見れないでいた。

あぁ…ここから1人で走るんだな…。

どこかさみしく思う反面、もう諦めていた。

「わかりました…」ぼそりとさとるくんが呟く。「八幡浜まで戻ってダメそうなら行ってください…けど、もう少し走ります」缶コーヒーを握りしめるさとるくんの手が、視界の端に映った。声色は落ち着いている。

これがラストチャンスかもしれない。

50km先の八幡浜へ戻れば、宿だって交通機関だってある。それまでにさとるくんの調子が戻ればいいんだけど。無理そうならそれまでだ。いくら親しい友人でも、ぼくは彼を置いていこう。冷酷だが1000km走り切るためには、それしか選択肢がないんだから。


いま走ってきた道を戻る。

佐田岬の先端までクリアできたが、まだ復路が残っている。けっして楽をさせてくれない厳しい道だ。

走りは決して緩めない。

アップダウンを一定のパワーで登って降りるだけ。焦らなければ決して難しくない。ふ、ふ、ふ、と短く息を切る。


サイコン*が指し示す距離と標高だけを見る。大丈夫、大丈夫。いつも通り走れば大丈夫。

(*サイコン:自転車用のスピードメーター。距離や標高もわかる)

さとるくんが前を変わって牽いてくれる。スッ、スッ、スッ、となめらかに足が回っている。何千キロにも渡って、見てきた後ろ姿だ。まったくいつもと変わらない走りに、なぜかグッとくる…よかった。いつも通りだ。

ってか!!走りながらメンタルを立て直せるさとるくん強すぎないか!!!

ほんとうにすごいな…。ぼくもメンタルブレイクした経験があるからわかる。あれは地獄だ。地獄の淵に立っている感覚だ。走れば走るほど体調を悪化させて、精神もズタボロに病んでくる。ゆっくり睡眠を取らないとぼくは回復できない。それほどメンタルブレイクってのはキツイものだ。

それを走りながら回復させてくるとは…!!

一体どれほどの地獄を経験してきたんだ。やっぱり強い人だ。

妙な安心感を覚えながら、ラストの坂を乗り越える…。さとるくんは最後まで安定して走っている。大丈夫そうだ。

きっとさとるくんは大丈夫だ!

八幡浜市街が見えた瞬間、ぼくはガッツポーズして叫んでいた。

過酷な110kmコースを走り切れた喜びだけじゃない…「このあともさとるくんと一緒に走れる」という喜びが確かにそこにあったからだ。

泊まっていたホテルに戻ってきた。6時間想定のコースを5時間で走ってきた。驚いた、これには心の底から驚いた。なんというスピードだったんだ…!獲得標高1400mもあったのに。

さとるくんの顔を見ると、疲れが滲んでいたが表情は晴れ晴れとしていた。

もう諦めなくてもいい!

そう直感すると、なんだかうれしくなってしまった。このあとの650kmも一緒に走ろう!!

ホテルに預けていた荷物を取りにいく。時刻は朝9時過ぎ。朝食バイキングの片づけをしているようだ。スタッフさんがふとぼくらを見て、ニッコリと笑う。なんだろうか、と思っていると「どうせ捨てるので、これ食べちゃっていってください!」と最高に嬉しいことを言われた。な、なんですって!!


ありがとうございます!!ありがとうございます!!


幸運なことに朝食にありつけた。早く戻ってきてよかった!

う、うま…い…。疲労した身体に染みる。これでもかとオレンジジュースを飲んでおく。限界ライドはビタミンが不足しやすいからね。栄養バランス、大事。

預けていた荷物も受け取り、思わぬご飯も頂いた。ごちそうさまでした。

昨日の夜では、予定分も走れない借金状態だったが、なんとかオンタイムに戻すことができた。いや正確には20分の貯金ができた。これならギリ80時間以内に走り切れるペースだ。

あれほど焦る必要は当分ないだろう…よかった。

ホテルを出て南に向けて走る。次の目的地は、四国最南端の足摺岬だ!!


ここから追い風アシストがバチコリ決まるっ!!

ブオン!ブオン!ブオン!

ホイールが唸りを上げて、回っているのを感じる。10mほどの細かいアップダウンが連続する。これぐらいは全然問題なし!疾走できる喜びに浸る。

あ~~これこれ!!きもちいいい!!

350kmを越えてようやく本領を発揮できている。エンジンがかかるのが遅いというか、ここまでのシチュエーションがあまりにも悪かったというか…。

「このひと漕ぎ、ひと漕ぎを積み上げていく」
ただこの想いだけでペダルを回す。

ゴールに向けて走る。このペダルひと回しで確実にゴールに近づく。ただそれだけの事実がぼくに力を与えてくれる。
真実はいつだってシンプルだ。

400~500km(宇和島市→足摺岬)


ふぅ、ふぅ…ほどよく息が上がっていた。

ホテルを出て40km走っただろうか。ちょうど400km地点の宇和島市に到着した。なんだか肩や首が痛い。昔から首回りが痛みやすいから仕方がない。まあ耐えられるかな、といったレベル。

さとるくんはどうやら脚に痛みを感じているらしい。1日目の逆風で無理に先頭を走ってもらっていたので、そのときのダメージが残っているのかもしれない。薬局に寄ってエアーサロンパスを買う。

「りっけいさん(ぼくのこと)も、痛いところあれば使ってみるといいですよ」とさとるくん。そうか、その発想はなかった。ありがたく拝借して、首回りと腰回りに吹き付けてみる…うっひょ冷たい!!

これでさとるくんの脚もよくなるといいんだけど。痛みを抱えながらロングライドするのはツラいしね。

相変わらずのアップダウンだが、追い風がバンバン味方してくれる!いける、いけるぞ!!
ひたすらペースを落とさないことに気をつけながら、淡々と南下する。

ちょうど愛南町でみつけたぞ!

ジョイフルにピットイン!


おろしハンバーグ定食いただきまーす!

うんまい、うんまい!タンパク質をしっかり取れるのが嬉しいね!

さとるくんは脚の痛みがやっぱり気になるようで、クリート位置*を直すらしい。

*クリート位置調整:ペダルとシューズを一体化させる固定具、その位置を調整することで膝の痛みがなくなることも。

「これで脚の痛みが良くなるといいね」なんて言いながら、さとるくんを先頭に走りだす。

高知県だ!この後の長い海岸線よろしくでーす!


さとるくん先頭でチャキチャキ走っていく。


くぅ~!青空の下、自転車で駆けていくの気持ちいいぃい!

足摺岬に近づくにつれてアップダウンが激しくなる。

地形的に岬ってのはもともと山だから、全国どこでも似たようなアップダウンになる。

ラストの坂を乗り越えて…見えた!!足摺岬の看板だ~~!!18:30予定のところ、17:00に到着じゃい!

よっしゃおら-!!

と喜んでいると「早かったですね~」と声をかけてくれる人が…もしかして

esさん(Twitter @RIDE1965es)だ!

今朝4時に迎撃に来て下さったフォロワーさんだ。たった13時間でまた会えるとは!うれしい再会だ!

esさんに写真を撮ってもらい…

四国最南端をゲット!!

同じ自転車乗り同士、会話が弾む。


esさんのバイクBASSO。

実物を見るの初めてだったので、まじまじと見てしまった。やっぱりイタリア車は、上品でかっこいいなぁ。

最後にはesさんの車載カメラで僕らの走りも撮ってもらった。


たっぷり喋り、遊んでもらってありがとうございましたー!!

ものすごく楽しい時間でした。こうやってフォロワーさんと出会えるから、チャレンジ系ライドは楽しい。

500~600km(足摺岬→四万十町)

足摺岬を抜けたところで

サイコンが530kmを示した!!

キターーー!!去年の『ゆるキャノボ』と同じ距離まで来たぞ!530kmを35時間25分、という去年よりいい結果が出てしまった!前半のコンディション悪かったし、睡眠もがっつりとってこのタイム…めちゃくちゃ速いぞ!(ゆるキャノボの記事はこちら


さとるくんと喜び合いながら、北上する。足摺岬をクリアしてしまえば、ずっと気も楽になる。


そろそろ晩御飯の時間かね~!

四万十市入り!

はい、ジョイフルですね。この旅3回目の登場だ。

もうGW期間の地方の救世主です。深夜2時まで開いてるし、いつ行ってもおいしいご飯を提供してくれる。この安定感、たまんねぇっす。

もちろん食べるのも、おろしハンバーグ定食!3食連続だけどめちゃおいしいからね!今晩だけはドリンクバーもつけちゃう。オレンジジュースたくさん飲んじゃう!!

さとるくんもニッコニコしながら、ネギトロ丼を食べている。飯テロやで~!なんて笑いながら。

すっかりお腹を満たしたぼくらは、まだ走る。

600~700km(四万十町→安芸市)



ここからは、ナイトライドの時間だ。

気合を入れていくぞ!!

サイコンの電源を入れる。
サイコン「…」(フリーズ)
ぼく「え…?まじでか?」(ボタンぽちぽち~)
サイコン「…」(無視)
ぼく「いやいや…そんな冗談やめてよ」(電源ボタンぽち~)
サイコン「初期化するやで~」
ぼく「ファッ!?やめんか!!!!」


サイコン「全部データ消えたで~」
ぼく「ファ〇ク!!!!」

ログが全部消えやがった!!!走ってきた道のりが!!データが!!しかもナビのデータも消滅した!!

ぼくは凹んでいた…くそほどでかいため息をついていたと思う…。

そんなぼくを見かねたんだろうか。
さとるくん「大丈夫ですか?ナビは俺がやりますし、距離とかも随時教えますよ」
ぼく「あ…ありがとう…めちゃ助かる…優しすぎる…」

このさとるくんの優しさには助けられた…。暴れ出した衝動を抑え込む。「こんなところで怒っても仕方がない」と冷静になれた。

初期化したサイコンで、もう一度ログを取り直す。575kmまで走ってきたので、いま表示されている距離にその数字を足してやればいい。

ふぅ~、これは大きな痛手だ。モチベーションに関わる。

ここまでのデータのことは一旦忘れよう。ここにあるのは「今」だけだ。過去のことなんて考えたって仕方ない。「今」やれることだけを淡々とこなしていこう。

気持ちを切り替えて、夜のヒルクライムを始める。

ここから夜のおしゃべりが始まった。
まったくクルマの通らない道、静かな夜の山。いままでの「おしゃべり欲」が溜まっていたんだろう。
自転車のこと、アニメのこと、とんでもない自転車乗りの友人の話…いくら話してもネタは尽きない。

あぁ…楽しいな。600km以上走ってきて、夜の山を登っている。それもさとるくんと一緒に走れている。

この奇妙な友情という心地よさに浸っていたい。ハタから見ればアホみたいな挑戦だけど、この空間がなんとも気持ちがいい。

標高300mまでクライムアップしたところで、眠気が急にやってきた。
ダンシング(立ち漕ぎ)しても、眠気を感じるほど。

無理もない、今日走り出して18時間は経過している。
さとるくんの後ろに付いていると気が抜けるので、先頭を走らせてもらう。

眠い…眠い…けど寝ちゃダメだ!!
「事故ったら終わり。事故ったら終わり」と自分に言い聞かせて、なんとか眠気を追いやる。

長い長いダウンヒルをこなしていると

ロ、ローソンだ!!

実家のようなローソンの安心感よ。カフェオレをぐびりを飲む。きっとホテルまで走り切れる。大丈夫、大丈夫。

走りながら寝落ちしないよう精一杯、気持ちを張り詰めてライトの指し示す方を走る。

あれからどれほど走ったことだろう。明るい街がぼくらを迎えてくれた。夜の山からの生還。この瞬間がどれほどホッとすることだろうか…。


ホテル到着~!

ようやく着いた…。無事でよかった。
距離にして380km、獲得標高は4000mを超えている。
なかなかいい走りをできて満足、満足。

0時過ぎでも無人チェックインできるの、ほんとにありがたい…。
明日は9時半に起きよう。とさとるくんと話す。

今日は朝4時から深夜0時まで20時間も駆け抜けてきた。
さすがに疲れもあるので、ゆっくり寝ましょうや、という作戦。

シャワーを浴びて、ゆで卵3個食べて、オレンジジュースを飲む。
深夜1時過ぎ、就寝。

Zzz…。
7時半にはパチリ、と目が覚めた。

ちょうど気持ちいいタイミングで起きれた。さとるくんは寝ているし、まだ布団の中でゴロゴロして過ごす。

切羽詰まった限界ライドなのに、まさか布団の中でのんびり時間を過ごせるとは…。贅沢なひと時だ。

8時過ぎ、さとるくんも起きてきた。

さとるくんは乾燥機にかけていた洗濯物を取りに行ってくれる。昨晩の内にぼくの分も洗濯してくれたようだ…本当にありがたい…。

この後の行程を話しながら、のんびり朝ごはんを食べる。
これほどゆったり時間を過ごすのは、これが最後になるだろうときっとお互いに分かっていたと思う。分かっていたからこそ、ゆっくり朝ごはんを食べていた。

そろそろいこうか。

忘れ物チェックをして、部屋を出る。

チェックアウトの際に、ホテルの空気入れを見つけて、ちょっとお借りする。
前後7気圧までバッチリ入った。おまけに持参していたオイルをチェーンにさしておく。
さとるくんバイクもすっかり整ったようだ。

さすがは四国。サイクリングロードが整備されていて、道の駅やホテルに自転車メンテ道具が揃っていたりする。ほんとありがたい…。

さあ、3日目!出発だ!!

9時半過ぎ。645km地点からぼくらはまた走り始めた!


気持ちのいい海岸線。もうここから先は標高200m以上の山はない。

平地を思いっきり疾走できる喜びを感じながら、ぐいぐいペダルを回していく。


須崎市、土佐市を抜けて、高知市入り!

坂本龍馬と桂浜が有名な街だ。あとカツオも!

市街地に入り、交通量も増えてきた。

さとるくんから出されるハンドサインを見ながら、注意深く進む。
が…高知のドライバーさん運転荒くないですか?
もう肝を冷やすシーンがあまりにも多い。

無理な幅寄せで轢かれそうだし、対向右折車がぶつかってこようとするし。信号待ちしてたら、赤信号無視した自転車が突っ込んできたのには、さすがに笑った。命を懸けたギャグでは?

「高知の交通状況が半端ねぇ…」なんてさとるくんと話していると、『カツオのたたき』という旗がチラリと見えた。
前を走るさとるくんも興味ありげにチラチラ見てる。

ん?行きたいぞ…!

「ここで食べていかない?」どちらが言うともなく、ふらふらと店に導かれていった。

レストラン「かつお船」

ネーミング、最高か?

チャキチャキのおばちゃんが元気よく挨拶してくれる。「あ、この店、絶対うまいところやん」そう直感が告げていた。


もちろん、オーダーは「カツオのたたき丼」だぁ~~~!!

勢いあまって、クジラ揚げまで頼んじゃったよ。

いざ、いただきます!!
くぅううううああああ!!!うんまぁあああいいい!!

カツオが!!ぴちぴちのカツオが!!口いっぱいに泳ぎ回っているぜ、こりゃ。
新鮮すぎませんかねぇ…臭みもなく、なめらかな舌触りでふわふわ溶けていく…外側の「たたき」部分も香ばしくってうんめぇな。クジラ揚げも肉感たっぷりでおいしいのなんのって!

さとるくんも満足そうな顔をしている。2人して「うまい、うまい」と食べる。

あ~これこれ。この楽しみ方なんだよ…いつもの自転車旅している気分で本当に楽しい。

カツオがたっぷり入っているもんだから、ご飯だけおかわりしちゃったよ。丼の具材が多すぎるって、幸せかよ。

最後はだし汁をぶっかけて、薬味のニンニクとネギをしっかり味わい尽くしました。

暖かいご飯は最高だ。それもご当地のグルメを味わえるだなんて…。

心身ともにすっかり回復した僕らは、残り300kmに向けてまたペダルを踏み出した。

54時間経過して、700㎞走ってきた。
きっとゴールにたどり着ける。そんな確信が僕の中で強まっていた。

後編へつづく…

この四国一周をさとるくんもブログにまとめているよ!めちゃ面白いのでぜひどうぞ!!こちらからどうぞ~!!

この様子をYouTubeにもまとめているよ!ぜひ見てね~!

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