キタキタキターーー!!
出発から55時間、ぼくとさとるくんは700km地点に来ていた!
目標の80時間まで、25時間も猶予がある…!
いける、いけるぞ!!
わずかな勝ち筋が見えてきたぼくらは、さらにペダルを踏み込んだ。
この記事は、四国一周1000kmライドの“後編”だよ!(これまでの記事を読まなくても大丈夫!なはず!)
①準備編
②前編
③中編
④後編←イマココ
700~800km(安芸市→海陽町)
室戸岬へ向かっていた。
この1000kmチャレンジもついに終盤。ここまで長い長い戦いだった…と言っても、まだ300kmも残っている。すっかり距離感覚がおかしいけど、300km走るのだってラクはできない。気を引き締めていくぞ!!
3日目の今日は、さとるくんが70km以上牽いてくれている。力強く突き進む姿には頼もしささえ感じる。
ぼく「さとるくん、そろそろ先頭交代するよ?」
さとるくん「まだ大丈夫です。まだ牽きますよ!」
ぼく「そう?」
さとるくん「昨日、りっけいさん(ぼくのこと)がほとんど牽いてくれたので、今日は俺が牽きます!!」
ゾクリと鳥肌が立つ。さとるくんは本気だ。いや、いつだってさとるくんは本気だけど、気合の入れ方が並みじゃない。すでに700km以上も走って疲労だって溜まっているだろう。それなのに、楽な方へ逃げない。
プライドだろうな…くぅ…!カッコイイな!!
よっしゃ!そのプライドで一緒にゴールまで走り切ろうじゃないか!!
後ろにつくぼくにできることはしっかり休むことだ。前と後ろじゃ体力消費ペースが違う。後ろにつけばほとんど体力消費しなくても済む。このあとの戦略がまだ残っているんだ。その時のために、いまは“溜め”の時間だ。
幸いにも身体に痛いところはない。さとるくんアドバイスのエアーサロンパスの効果があり、首や肩の痛みからすっかり開放された。お尻に痛みがあったが、いまは麻痺している。今朝ホテルの鏡で見たときは、「うっ血」して黒く変色していたが、きっと大丈夫。もう痛みとすら感じない。
いける、いける、いける。
…
対向車線で手を振ってくれる人がいる。よく見ると「四国一周サイクルジャージ」を着ている。もしやフォロワーさん…?
歩道に入って待っていると、こっちまで来てくださった!
迎撃してくれたのは、Namakiyoさん(@Kiyoppi)だ~~!ありがとうございます!!
Namakiyoさん(@Kiyoppi )に迎撃していただきました!!
四国一周のフラッグもいただき、ありがとうございました!! pic.twitter.com/fSOxb2hRbU
— りっけい (@rikkei2) May 4, 2021
四国一周のフラッグもいただきました!
ありがとうございます~。軽く立ち話するだけでも元気を貰える!わざわざぼくらに会うために待っていてくれたのが嬉しい!迎撃どうもありがとうございました!!
気が引き締まる!!安芸、奈半利を抜けて室戸市内へ入る。ここらが最後の休憩ポイントになるだろう。岬から向こうは40kmほどコンビニもない。
目ざとく見つけた道の駅にピットイン。
トイレを済ませて、一息つくとなんだか頭がボーっとする。いつものことだ。自転車を降りた瞬間に、力が抜ける現象だ。
自販機でコーラを見つけてベンチに座る。
ふぅ~、なんでロングライドで飲むコーラはこんなにもうまいのか…。
隣でさとるくんはアイスカフェオレを飲んでいた。1分だけ目をつむる。道の駅の喧騒、駐車場の音…次第に音が遠ざかる。ふぃ~。いいぞ、頭が休まっている。
さとるくんと簡単に相談する。想定以上のペースでここまで来れている。作戦では1時間で17km進む計算だったが、20kmペースでこの5時間を走れている。うん、行ける限りはこのペースで行こう。2人の意志が同じ方向へ向いている。
休憩後、ぼくが先頭で走りだそうとすると、「室戸岬までは…牽かせてください」とさとるくんが声を掛ける。その声に熱がこもっているのを感じる。今日だけで100km以上、牽いてくれている。さらにまだ行こうというのか!
さとるくんを信じて先頭を譲る。
きっとまだまだ余力があるんだろう。ぼくはもう少しだけ体力を温存しておこう。2人のメリットを最大限に生かさないと、このチャレンジは達成出来ないのだから。
「岬まで遠いな…」とひとりごちるさとるくんだったが、走りが相変わらず強烈だ。一体どれだけの鍛錬を積めば、これだけのパワーが出せるようになるのか…やっぱり優秀すぎる自転車乗りだ。
そして
室戸岬、攻略だ~~!!
四国の南東端をゲット!この岬へのアプローチには山が含まれないのが特徴だ。完全フラットなコースなので随分とラクに走れた!!これが四国一周のセオリーに反した『半時計まわり』の効果だ。3日目以降はほとんど高低差がない!!
さすがにさとるくんもお疲れの顔だ。ここまで120kmも牽いてくれてありがとう!
ふとまわりを見る。雲はかかっているが、雨は降りそうにない。
ビョウビョウビョウ!!
そして風が強い…!この風、いい傾向だ!!!
事前に見ていた予報通りの風が吹いている!ニヤリと笑ってしまう。
疲れているさとるくんには申し訳ないが、もう少し頑張ってもらおう。
ここでぼくが先頭を取り、走りだす。せっかく来た室戸岬で、まったく観光ができないのがもったいないがまた来よう。
走りだすとすぐにわかった。
やっぱり追い風だ!!
このときの追い風はなんと6~8m/s!!時速にすると22~29km/hだ!!とんでもなく強力な味方になってくれた。初日に大苦戦を強いられた逆風と、偶然にも同じ風速だった。ようやく風も味方してくれるようになったか!
ぼくはこれを待っていた。さとるくんの後ろで体力を温存していたのも、追い風で一気に距離を稼ぐためだった。
ぐぉん!ぐぉん!ぐぉん!ぐぉん!
ハンパじゃないスピードに乗って加速する。30km/hでも空気抵抗を感じなかった。
あっという間に景色が横切っていく。まるでぼくが動力となって、地球を回しているような感覚になる。疲れているさとるくんには申し訳ないが、ここでは一切緩めないぞ!!
これだよ!これこれ!!このスピードが欲しかった!
稼げるときに稼ぐ。ロングライドのセオリー通りに、事が運ぶ。
頭ん中のシミュレーションと、現実が一緒になるのって、サイコー
『稼ぐ!稼ぐ!ここで一気に稼ぐ!!』
と心の中で唱えて、パワーを一気に開放する。
とその時…
さとるくん「めちゃいい風ですね!前、走らせてください!!」
ぼく「え?」
ヤツの体力は、バケモンか!?後ろにつくにもキツイ速度で走っていたはずだ。あれだけ疲れていたはずなのに、まだ走れるというのか…。
すっと先頭を譲ると、気持ちいい速度で疾走する。
もうさとるくんは天才だ。自転車乗りの天才だ。
室戸岬の東側の海岸線は、無補給地帯として有名だ。40kmはコンビニすらない。…ということは、信号だって街だって、ほとんどないんだ!!
風向きだけではなく、距離を稼げる快走区間だ。どんな形であれ戦略がハマればそれでいい!
さとるくんと交代を繰り返しながら、高速ラッシュをかけていると、ついに県境を迎えた…!!
700~800km(海陽町→徳島市)
ちょうど800km地点。
高知県→徳島県の県境だ~~~!
今回、唯一の未踏の地、徳島県だ。ここには難関の“最東端”が待ち受けている。油断せずにいこう!
いくぜ、いくぜ!まだまだ風は味方してくれている!!
補給食をかじり、水を飲み、残りの体力と空腹具合を計算する。現在17時。
そろそろ夕飯を食べたいが、如何せんここらには大きな町がない。走りながらさとるくんと相談し「まだ距離を稼ぎながら、いい感じのお店を見つけたら迷わず入ろう」と決める。
これまでの自転車旅で培ってきた野生の勘に頼ってみよう。
道路のつくり、町の気配、お店の気配…。山間部へ入ってしまうと、食事にありつけなくなってしまう。
どこだ、どこだ…直感だけを信じて、店を探し入るか否かを判断する。
20kmも走っただろうか…ここだ~!!!
「さとるくん、ここにしない?」「いいですね!」
判断が早い!
峠の入り口に運よく定食屋さんを見つけた。よかった、よかった、時刻も18時前という絶妙なタイミングだ。お腹もしっかり空いている。
席に着くと、どっと疲れが押し寄せてきた。重力、増えた?
もうアドレナリンが切れたんだろう。注文を済ませて、机に突っ伏す。キツかった。ここまでの爆速ラッシュがキツかった。けど、2時間で54kmも走れた。グロス(休憩込み)の時速が27km/hか…この1000kmライドで最速の移動速度だったな。
すげぇな…いくら追い風とはいえ、800km越えで最速で走れるとは…。「おれらはすごい」ふふっと笑ってしまう。
アホほどキツくてもこうやって結果が出るから自転車は面白い。
さとるくんすっかりお疲れモード。
「はいはい、どうぞ~!」いかにも定食屋さんのおばちゃんって感じで、元気よく定食を出してくれる。
お造り定食だ!!
いざ、いただきまーす!…はい、うまぁあいい!!完全に優勝ですね。四国のお魚、おいしすぎませんかね!!!
さとるくんは唐揚げ定食を食べて満足そうな顔をしている。ふっと気が緩む。
ぼく「いやぁキツかったね。もう1000kmライドなんてやらないわ笑」
さとるくん「いや、りっけいさん強すぎますよ…てか、分かったんですけど」
ぼく「なに?」
さとるくん「りっけいさんの強さって、キャノボ的な強さ*じゃなくて、シンプルにロングライドなんじゃないですか?」
*キャノボ:520kmを24時間以内に走るチャレンジ。ロングライド+ファストライドの2つの強さが必要。
ぼく「ほほう…」
さとるくん「りっけいさんはファストライドみたいな高速移動が苦手かもですが、500kmを超えるロングライドが強すぎるんですよ」
ぼく「あはは~ありがとう~」
さとるくん「いやマジですよ。こう言っちゃすごく申し訳ないんですが…いや、言わないほうがいいか」
ぼく「なになになに、その言い方。気になるよ」
さとるくん「怒らないでくださいよ…?いままでりっけいさんはロングライドが得意って言ってて、それちょっと疑ってたんです。毎月の走行距離数も少ないし…そんなに走れないだろうって」
ぼく「うん」
さとるくん「でも、めちゃくちゃロングライドが強いんです。本気でそう思いました…」
真剣な目でさとるくんは語っていた。
その瞬間、パァアアアアア!!と視界が明るくなった。
こんなの、初めてだ。
『負けず嫌い』なさとるくんが本気でぼくの走りを認めてくれた。これまでどんな勝負事だって、ぼくが負けてきた、ヒルクライムもスプリントも、ロングライドも。絶対的な自信と揺るがないプライドを持つさとるくん。
自分の強さに満足せず、練習を続けるさとるくん。彼が追い求める「強さ」はいつだって純粋だった。その姿にいつもぼくは感服していた。きっとぼくはさとるくんのようにはなれない、と思いながら。
それでも、たった一つでも、その「強さ」をさとるくんに認められた…なんと嬉しいことだろうか。
はぁああ~、と深く息を吐きだして、天井を見る。最高の相棒だ。さとるくんは、最高の相棒だ。ちょっと泣きそうだ。
「ありがとう…ありがとう」そう返すのが精一杯だった。ここまで共に苦労してきた仲間から最大の賞賛を得る。これほど幸せなことは他にない。
がんばろう…2人できっとゴールしよう。
お店を出て、ぼくらはまた走りだす。
ここから日が沈む。ナイトライドが得意なぼくが先陣を切る。
標高150mの山を2つ越える。これでもう山は無い。
いまできることに全力を尽くすだけ。ここからは難関の“最東端”を目指すだけだ。
すっかり陽が落ちて視界が狭くなる。ライトが指す先を淡々と目指していると…なんだか道の雰囲気が変わった。
いままで2車線だったのに、1車線になり、道のわきには高い木々が迫っている。なんという圧迫感のある道だ。
さとるくんが急におしゃべりになった。走りとはあまり関係ないことを話し出す…これはさとるくんにストレスがかかっている兆候だ。
きっとこの夜の雰囲気が不気味なんだろう。
ますます道が悪くなる。
道には砂利、枝が散乱し、トリッキーな穴が空いている。後ろを走るさとるくんの目の代わりを務めるぼくは「ゆっくり~!枝、注意~!」と細心の注意を払って、声掛けする。
「やっぱり怖いですね、こういう道は」とさとるくん。さすがにメンタルにも来ているっぽかった。
「大丈夫~大丈夫、こんなところ昼に来てたら大したことないよ~。ほら、ガードレールもあるし、電柱だって立ってるでしょ。普通の道でしょ」と励ます。誰だって苦手なものはある。ナイトライドが好きなぼくにとっては、夜の林道の雰囲気は恐怖の対象にはならない。むしろ、夜の動物の飛び出しのほうがよっぽど怖い。
怖がっていたさとるくんも少しずつ慣れてきたのか、口数も減り安定した走りができるようになってきた。2日目のメンタルブレイクの時もそうだったけど、さとるくんは恐怖心に打ち勝つスピードが尋常じゃない。あっという間にメンタルを回復させてくる。
5km以上も続いただろうか。なんとか暗闇の林道区間を超えた。
ぼく「さとるくん、ごめんね。明らかにルートが悪かったわ…下調べ不足だった」
さとるくん「いやいあや、1000km分のルート全部チェックできるもんじゃないですよ~笑」
ぼく「そっか~ありがとう」
さとるくん「むしろここまでのルートを、ノーミスで引いてくる下調べのほうが凄すぎますよ」
ぼく「あはは~ありがとう!」
さとるくんを助けていたつもりが、いつの間にか助けられていた。
さて、最東端だ。ここがかなりネックになっていた。
3年前のさとるくんとの四国一周の際に、ここを訪れていた。結構なアップダウンがあり、コンビニもないというのが難しいところだが、きっと今のぼくらならいける。
最東端に向けてグッと気合いを入れて走りだした。
…
はぁ…はぁ…はぁ…。
ぼくは駐車場でぶっ倒れていた。もう限界だ…限界だけど、到達した!ここが最東端だ!!!
ここまでの道が最悪だった。『最悪路面部門』『動物アタック危険部門』堂々の一等賞を上げていい。
まず路面が良くない。また石や砂利が散乱していて、危なっかしいたらありゃしない。しかもアップダウンしながらの急カーブ道という超ハードゲー。
暗闇という視野の狭さでクリアできるレベルじゃないよ!!
さらに動物!野兎やタヌキがバンバン出てくる。「おいおいおい!!!」と大声を出して追っ払おうとするが、やつらは道の真ん中で右往左往するばかりで一向に避けてくれない。そのフェイントのうまさを活かして、カバディでも始めればいいのに。
ラスト500mではシカが2頭現れて、もう大騒ぎだ。どったんばったん大騒ぎ~♪ここはジャパリパークじゃねーんだぞ!!
とてつもない集中力を使い、もう疲労困憊だ。完全に脳のキャパシティを越えていやがる。たった10km進むのに1時間もかけてしまったぞ!
さとるくんは「ここは安全に走れて何よりですよ、ちょっと休みましょう」と優しく言ってくれる。そうだ、ちょっと休んでいこう。目をつむり10分…ゴウゴウと海風が鳴る中、リラックスする。うん、寝れたわけじゃないけど、ずいぶん休めたぞ。
ふぃ~!もう時刻は21時過ぎ。それでも寒さを感じずに外で寝れるんだから、この四国の暖かさには感謝するしかない。
よっしゃ行こう。今度は、来た道を戻る復路だ!!
…
ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…。
またしても大変な道だった。野兎にカバディをかまされ、イタチにもカバディをかまされた。ちくしょう…やつらのフェイントうますぎるだろ。急に飛び出してくんなよ…。
民家のある場所まで戻ってきて、ようやく一安心。よかった。ほんとうによかった。
気が抜けると急激にお腹が痛くなってきた。
ぼく「さとるくん、ごめん。トイレ行きたい」
さとるくん「ん~、3km先にコンビニあるので、そこ行きましょう。大丈夫そうですか」
ぼく「た、たぶん…」
さとるくんの背中を追いかける。もうチカラなんて入らずヨロヨロだ。ああ、頼りになるなぁ。さとるくんのこの安定感に何度救われてきたことだろうか…。この1000kmチャレンジ。ただ単に足が揃うだけじゃきっとダメだ。
自分がツラい時には「ツラい」と吐き出せるほど信頼できる相手じゃないとダメなんだ。
相手だって苦しいのは分かっている。分かっているけど、それも織り込み済みで弱音を吐けること。自分の弱さも受け止めてくれるほどの器量がある人じゃないと、きっとうまくいかない。
さとるくんの安定感はそこにある。僕がツラいと吐いても、前向きな回答が返ってくる。さとるくんは、人としても強いのだ。
無事に大通りに戻ってきて、
コンビニを見つける。
ギリギリだがトイレに間に合った。
またわがままを言って駐車場の端で寝っ転がる。
あぁ~~きついなあ。もう脚はボロボロで使い物にならないし、筋肉は全部溶けてしまいそうだ。
集中力もすっかり使い果たして、脳はまともに動いているのか分からない。
キツイ…あまりにもキツイ…。
なんでこんなことをやっているんだろう。命の危険だってあるというのに。こんな夜遅くにも走らないといけないんだなんて…。
でも…でも…!!!
スマホで、とあるサイトを見て、ニヤっと笑ってしまう。
ガバリと身を起こす。
『あぁああ~~~!!たのしい!!!!』
ぼくの声を聴いてさとるくんがぎょっとする。
いい、これがいい。限界のさらに向こう側にようやくやって来れた。ここまでの戦いも決して悪くない。ここから先もきっとたくさんの苦しみがあるんだろうけど、それでいい。
だってようやく勝ち筋が見えたんだから!!!
ぼくのスマホには「風予報」サイトが映し出されていた。
ここからおよそ70km先までずっと『追い風』予報なのだ。
キタキタキターーー!!
出発から64時間、885km地点に到達していた!残り115kmに対して、16時間も猶予がある…!
そのほとんどが追い風なのだ。
勝った!賭けに勝った!!!
『最東端攻め』している際には、方角的に風アシストは無かった。しかしこの先は、深夜に珍しい強風だ。もう運だけの世界。
事前に「毎年の四国の風の傾向」も調べていたが、ここまで運がいい年は滅多にない。きてる、これはきているぞ!!
ニヤニヤ笑うぼくをみて「この状況が楽しいんですか?」と疑問な様子のさとるくん。いま追い風が来ていることを伝えて、2人でニッと笑う。
これは行けるぞ!
2人の中にゴールへの確信が芽生え始めていた。
900~1000km(徳島市→高松市)
コンビニを出発してから、状況が一変した。
これまでにはなかった強風がぼくらの背中を押している。室戸岬を出たときよりも強い風だ。
35km/hを下回らない速度でガンガン走る。
痛みも苦しみももう感じない身体だ。スピードに乗れるうちに思いっきり乗ってしまおう。いつ身体が悲鳴を上げるか分からない。
23時を回ると、国道55号線は空いている。
あっという間に徳島市内に滑り込んだ。
ここで最後の作戦。ネカフェで仮眠をとる作戦だ。
あと90km。夜通し走るのはさすがにリスクが高い。さとるくんもぼくも疲労でいっぱいいっぱいだ。すこしでも仮眠して疲れを取り除いておきたいところ。
ここで脳裏にチラっとよぎる…75時間切り。
悪魔めいた数字だ。残り90km弱を9時間以内に走れば、75時間が達成できる。その数字をさとるくんに伝えるのは、何だかはばかられる…。今回は完走することが第一目標だ。事故を起こして走れなくなるのなんてまっぴらごめんだ。
そんなことを考えていると「仮眠を1時間にしませんか?」とさとるくんからの提案が。うん、ありがたい…。1時間仮眠でも充分に75時間以内ゴールが見える。
快活CLUBに入り、1時間15分後に集合することを決める。
深夜0時。ぼくは目を閉じると同時に深い睡眠に入った。
…
パチリ。自然に目が覚めた。
体内時計が優秀でびっくりする。身体はどこも痛くない。太ももがじんじんと熱を帯びているのと、腹筋にやや違和感を感じるぐらい。
準備に手間取り、すこし遅れてさとるくんと合流する。
さとるくんの顔も凄く疲れているようだが、燃えているような表情をしている。
大丈夫だ。さとるくんの火はまだ消えていない。
コンビニで最後の補給食を買う。ぼくの大好きなブラックサンダーを7本買う。これだけあれば90km走るのに充分だ。
では、行こう!!
最後の最後!!ここまで900km以上走ってきた集大成をここで見せようじゃないか!!
さとるくんを先頭に走りだす。
ここで怖いのは事故だ。徳島県内のメイン国道を走るので、後続車にも細心の注意を払う。どんな小さな変化もさとるくんへ伝える。「トラック来てる!」「後続なし!」「信号注意~!」当たり前の声掛けを当たり前のように続ける。
自分の意識をハッキリ保つためにもこれが効果的だ。
絶対に事故は起こさない!!!
さとるくんも燃えている。グイン、グイン踏み込んでている足を見ると、なんだか涙が出そうになる。
ここまで一緒に走ってきた。ツラい風や雨も一緒に切り抜けてきた。もうだめだ、さとるくんを置いていこうと思った。お互いのロングライドの考え方が違って、苛立ってしまった。それでもお互いに諦めず、ただ前を向いて走る。この1点だけの目的のために、力を合わせて苦難を越えてきた。400km地点からはずっと足並みがそろって、お互いの体調や脚力、休憩のタイミングなんて完全に同調していた。
楽なスタートじゃなかったけど、ちゃんとここまで来れた。そしていまは『ゴール』が見えるトコロまで来れた。
きっと一人じゃ走れなかった。さとるくんという最高の相棒が、ずっといてくれたからこそ、ぼくも実力以上の力を発揮できたんだ。
そういう意味ではさとるくんは天才だ。毎月1000km以上乗り込み、地道に鍛錬を続けてきた。僕が走りやすいようにペーシングも変えて、「2人が一緒に走り切れる走り方」にコッソリ変えてくれていたのを、ぼくは気づいていた。さとるくんは黙っているが相当な気遣いがないと、相手を配慮したファストライドはできない。
あぁ、君は天才だ。ただただ努力を積み重ねて天才の域に到達している。ほんとうに素晴らしい自転車乗りだ。
…
いや!!!まだだ!!!ただ感傷に浸っている場合じゃない!!!
いま!今この瞬間に集中するんだ!
ゴールへの明確なイメージを持ったまま、泣きそうな感情を打ち消すんだ。まだ勝負は終わっていないんだから。
自分へ叱咤激励を飛ばしながら、さとるくんとぐるぐる先頭交代する。
気づいた時には、香川県に戻ってきていた!
うぉおおおおお!!!!いくぞ!!!!!
残り50km…ぼくは気づいてしまった。
『このペースだと72時間切りができるかもしれない』
とてつもない移動速度だ。どう計算したって75時間以内には入れるし、72時間切りも見えている。
けどさとるくんはどう考えているんだろう。この事実はなんだか伝えないほうがいい気がする。変に時間を気にして事故るのが一番恐ろしいから…。
悶々と考えていると…
「あれ…これ72時間できるんじゃないですか?」と飄々とした顔でさとるくんが話しかけてくる。
…ふぇ?
気づいちゃった?笑
さとるくんは何ともない顔で「じゃあ72時間以内いきますか!」なんて言っている。ま、そりゃ気づくよね。
「うん、いこう!焦らず走ればきっと間に合う!!」ぼくの呼応を聞いてさとるくんはグッとペダルを踏みしめた。
…
さぁラストボスを倒しに行こう。それが『四国最北端』の地だ!!
今回の1000kmチャレンジ、もう1つの課題が『四国の東西南北の端を制覇する』ことだった。ここまで北以外の3端を獲得してきた。ラスボスの最北端へいこう!!!
…ズキリ…。
違和感のあった腹筋に痛みが走る。「…え?まさかここで?」と嫌な予感が走る。姿勢を変えてみても効果なし。きりきりと痛みが増してくる。
あぁ…これはアイツだ…。
胃腸の痛みだ!!半年前の国道8号線キャノボのときに、リタイヤに追い込まれたときの「胃腸の痛み」と全く同じだ。
今回はあまりにも長時間、前傾姿勢になっていたので、胃腸の動きが悪くなってしまったんだろう。
くっそ…いてぇなぁ…。
半年前は14時間ほど痛みに耐えた末に、とうとう痛みによって動けなくなってしまったのだ。
そうかい、そうかい。のこり20km地点でこの痛みがやってくるかね。
いいだろう…勝負してやる!!!!
あまりの痛みの様子にさとるくんが心配してくれるが、気にしている余裕はない。いま目の前の道を走るだけだ。路面の細かな振動が痛い。脚を振り降ろした振動が痛い。なにをどうしたって痛い…。
だけど、負けるな…きっとたどり着く。
おっしゃ、おらぁあああああ!!!
四国最北端ゲットじゃぁああああ!!!!
くそ!いたすぎる!!!!
でもいくぞ!いくぞ!いくぞ!!
ダンシング(立ち漕ぎ)をして坂を登る…ダンシング…あれ、痛みがマシになる。
そうか、ダンシングで無理やり内臓を動かしてやればいいのか。
おらおらおらおら!!!最後の力を振り絞って、平地でもダンシングで切り抜ける。
おおお!!痛みが引いてくれる!!!
幸運!なんという幸運だろうか!!!
痛みが引いていつも通りの走りができるぼくをみてさとるくんも安心したようだ。
よっしゃ、ラストの走りだ!!うぉおおおおお!!!!いっけぇえええええええれえ!!!!!!!
見えた!!高松駅だ!!あと信号2つ分!!ここで事故らなければゴールできる!!
さとるくんも疲れた顔でニコニコ笑っている。よし、行こう。最後の走りだ!
ああああああああああああ!!!!!
ゴォオオオオオルゥウウウウ!!!!
きたぞ!!!!!!高松駅!!!!!うぉぉぉおお!!!!うれしいいいいいいい!!!!
距離にして1007km。71時間47分!!
やった!ついにできた!!
四国一周1007kmを完走しました!!
目標時間80時間のところ、大きくに短縮して71時間47分でした!
ツラいことも多かっけど、それ以上に物凄く楽しかった!!!みなさん、たくさんの応援ありがとうございました!!やったぜー!!うぉおおおおおお!!!#1000kmゆるTT pic.twitter.com/pGzRpc3HlV
— りっけい (@rikkei2) May 4, 2021
まさかの72時間切りが達成できてしまった!!
さとるくんは安堵感のほうが大きいのかぐったりと座り込んでいる。ほんとにお疲れ様。
はぁ…この達成感の気持ちのいいことよ…。事故も機材トラブルも一切なかった。2人で1000km走ったのにパンクすらなかったのには驚いた。
よかった。ほんとよかった。すごくいい挑戦だった。小雨の降る朝6時の高松駅。通行人は誰も知らないチャレンジの終焉は確かにここにあったのだ。
ゴール後
ゴール後はさとるくんとガッチリ握手。
いやぁ、ほんとうに楽しかった
そして、たくさんの応援をありがとうございました!!
Twitter上の応援だけでなく、実際に駆けつけて応援してくださる方もたくさんいて、大変楽しいチャレンジになりました!
1日目にはあまりの悪天候に絶望したり、2日目にはさとるくんを置いていこうとしたり、いろいろな危機がありましたが、無事に事故なく走り切れたのがなによりもうれしかった。
さらには80時間目標のところを、大きく短縮して71時間47分というおまけつき。もう文句が一切ない素晴らしい結果が出た。
もうしばらくはチャレンジ系ライドはやりたくないけど、こうしてチャレンジできたこと自体がものすごく幸運だと思う。
自分で掲げた挑戦に、自分なりに挑んでみる。
これこそが自分の原動力であり、最大の楽しみなんだと思う。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
みなさまの何かのチャレンジの後押しにでもなれば嬉しいです。
挑戦することに価値がある!
いやぁ、楽しかったなぁ~~~!!!!
おわり。
このチャレンジはさとるくんのブログにも書かれているよ!並行して読んでみると面白いと思うよ!
四国一周1000km80時間チャレンジwithりっけいさん 実走編 640-1007km(完結編)
この様子をYouTubeにもまとめているよ!ぜひ見てね~!
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