ロードバイクが嫌いになった1日【能登半島ツーリング④】

1808能登半島

この記事をアップする日が来るとは…。

2年間秘密にしていた話だ。意を決して、公開してみようと思う。

2018年夏に、さとるくんとツーリングをしていた。場所は石川県の能登半島。3日目まではとっても楽しく走ってきたのだが…。

今回は暗めのお話です(ごめんね)。ネガティブ話を読みたくない人は、このタブを閉じてね。

前回の話:目指せ!最北端の地!【能登半島ツーリング③】
この能登半島シリーズ全編はこちらから

では、本編にいってみようか。


「もう…ロードバイクなんて嫌いだ…」
暗い感情が僕の周りをぐるぐる飛んでいた。

落胆と呼ぶにふさわしい。まっくらな世界だった。

むせ返るような暑さ。じっとりと湿気を含んだ空気。

なにもかもが耐えられなかった。

ふと見上げれば真っ青な空なのに、ちっともきれいに見えなかった。

少し時間を遡って、その日の朝。

早起きして、朝日を見に行く。なんでも見附島と朝日の共演が見られるらしい。

キレイだ。


日本海×朝日

この組み合わせで見られるとは思っていなかったので、なんだか嬉しくなる。早起きをした甲斐があるってもんだ。いい景色だ。

さぁ、行こう。宿を出て能登の海沿いを走る。
前を走るさとるくんの背中を見て「今日もペース速いな~元気だなぁ~」とぼんやりと思っていた。

暑さと寝不足で頭がボーとしていた。

赤信号でさとるくんが停車した。それに続いて、ぼくも停車。したはずだったが…

ガッシャアーーーン…!

ビンディングが外れずに、コケてしまった。。。(*ビンディング:ペダルとシューズを固定する留め具)

受け身の取り方が悪く、首を痛めてしまった。衝撃が首に集中したようで、ズキズキと痛む…。

さとるくん「大丈夫ですか!?」
ぼく「まぁ、これぐらいは大丈夫」

これが不運の序章だったんだろう。

幸いにも自転車にはダメージがなさそうなので再出発!なんとか気持ちも切り替えて進んでいく。


穴水町入り!

上り坂に差し掛かったところで、違和感が…。

カチッ!カチッ!…カチッ!

変速ができない!!!


なんてこった…。リアディレイラーが突然の不調!

さっきの転倒の衝撃で壊れてしまったのか…?右側に倒れてしまったし、ディレイラーをぶつけてしまったのかもしれない。焦りと不安で、気持ちが落ち着かない。

ふー。うだるような暑さだ。

午前中だというのに気温計が33度を示していたっけな。

日陰に避難して、動作を確認してみる。使っている機材は『SRAM Red eTap』という電動変速ギアだ。まだ買ったばかりで、ロングライドでは初物。

電池切れかもしれないので、フロントディレイラーとリアディレイラーの電池と交換してみる。

…ウィン。

よかった。ただの充電切れだったのか。

けどフロントは2速→1速化してしまったな。インナー縛りで走るかー。

さとるくんに「ごめん、ようやく走れるようになったわ」と伝える。なんだか不安は払拭できていないが、走れるだけまだいいだろう。

さらに進んでいくと、今度はリアディレイラーまで動かなくなってしまった!!前後ともに完全に変速ができなくなってしまった…!!

…ずん。

世界の色がモノクロに見えた。気持ちが一気に落ち込んだ。

何なんだよ一体!!!!また充電切れなのか!!でも2つの電池が同時に、切れるわけがない!!どうしちまったんだよ!!

原因不明の機材トラブルに、ぼくの心は大いに荒れていた。なんでこんなことになってしまったんだ…。


このロードバイクはまだ買って、2か月しか経っていない。

せっかくのバイクが壊れてしまったのか。あの時にこけてしまったのが良くなかったんだ。変速ができないロードバイクで旅を続けるのか。はぁ…。せっかくの旅なのに全然楽しくない。もしかしたらパーツ買い替えか。

ぼくの落ち込みを察したさとるくんが声をかけてくれる。
さとるくん「ちょっと休憩しませんか?すぐ先にラーメン屋さんあるので行きましょう」
ぼく「あぁ…そうだね。いこうか…」

気の抜けた声で返事する。

前後ディレイラーが動かないまま走りだす。交差点を渡ったところで気づいた。ラーメン屋さんを通り過ぎていた。よっぽど頭がボーとしていたんだろう。視界に入っていたのに、素通りしていた。

慌てて歩道へ上がりこみ、Uターンするためハンドルを切る。

ッダァアアアン!!!

落車した。歩道に砂がたまっており、無理な方向転換でスリップしてしまった。

もう嫌だぁあああああああ!!!!腹の底から怒りがこみあげてくる。うがぁああああ!!!!!!


大切なロードバイクに傷が入ってしまった。

もう嫌だ、もう嫌だ。もう…ロードバイクなんて嫌いだ…。暗い感情が僕の周りをぐるぐる飛んでいた。頭をかきむしっても消えない暗い感情。いくら地団太を踏んだってぼくを離そうとしてくれない。

いつもなら「ロードバイクが大好きで、旅が楽しくて仕方ない」と喜びまわって走っている。それなのに…。。。

落胆と呼ぶにふさわしい。まっくらな世界だった。世界はこんなにも醜かったのか…。

むせ返るような暑さ。じっとりと湿気を含んだ空気。なにもかもが耐えられなかった。

ふと見上げれば真っ青な空なのに、ちっともきれいに見えなかった。恨めしいぐらいの晴天を睨めつけていた。

なんでこんなことになってしまったんだ。機材の不調、寝不足のイライラ、うだるような暑さ。なにもかもがぼくを責め立ているようだ。もうこんなところ嫌いだ。

もう家に帰ろう。乗り換えアプリを開いて調べる。
ここは石川県の穴水町だ。田舎だが幸いにも終着駅で、ぎりぎり線路は通っている。自宅は山形県だ。電車を調べると…。

所要時間、9時間だと!!!

あああぁああああああ!!そんなにも時間がかかるのかよ!!今すぐ家に帰りたい!!!!

世界から拒絶されたような感覚に陥る。もう消えてしまいたい…。

さとるくんが必死に励ましてくれる。「大丈夫ですよ、いったんゆっくりしましょう。急ぐわけでもないですし」「機材に傷が入っちゃいましたけど、バーテープの交換だけで済むのでむしろラッキーですよ」「とりあえずご飯食べましょう!」

今から考えればよく分かる。このとき明らかに寝不足だったのだ。寝ないとダメになる体質で、寝不足だと感情が荒ぶってしまう。このツーリングの前夜から仕事終わりで金沢まで移動して、そのまま4日連続で走り回っている。仕事のストレスと、自転車旅の疲れが蓄積している中での、早起き。もうボロボロだったんだと思う。

自分が寝不足という状況もよく分からないまま、不運が重なりメンタルブレイクしていた。


北陸名物の8番らーめん。味わう余裕なんて全然なかった。

さとるくんには申し訳ないなと思いいつつ、まだ自分の気持ちを持ち直せていないことにしょげていた。

さとるくん「もう変速できなくなっちゃったんですよね?よかったらバイク交換して乗りませんか?」
ぼく「え?」
さとるくん「ふたりとも同じ体格なので、乗れるんじゃないですか?」

なんとか旅を続けようと、さとるくんが提案してくれる。なんていい人だろうか。

ここからは変速不可のバイクにさとるくんが乗ってくれることに!メカトラが解消できたわけではないけど、心がすっと軽くなった。

ぼくは不安要素のないさとるくんバイクに乗る。すーっと素直に進んでくれる。うん、いい感じだ。乗りやすいぞ。

さとるくんは「全然行ける!!楽しい!!」「変速不可の縛りって、弱虫ペダルの合宿を彷彿とさせる感じで熱い!!」と、特殊性癖をあらわにして喜んでいる。


めちゃくちゃ乗りこなしていくさとるくん。

「ちょっと本気出します!」と宣言して、変速できないバイクで一気にヒルクラムしていく。

そんな様子を見ていると、無性に笑えてきた。ぼくがイライラしていたことなんて、とっても小さなことに思えてきたのだ。どんなトラブルだって楽しめばいいし、どんな状況だってパワーで解決すればいい。全力で走っていくさとるくんを見ていると、自分の悩みの小ささがおかしくなってくる。なによりパワーだけでヒルクライムしているさとるくんは変態だ(褒め言葉)。ほんと笑わせてくれるよ。

自由に走り回るさとるくんを見ていると、不安はすっかりなくなった。

心の中の澱が消えていくようだった。

能登半島もアップダウンが多い。ぼくはさとるくんバイクでラクして登っていく。さとるくんは1速バイクで、パワーだけで登っていく。どれだけ笑ったか分からない。

今日の目的地に着いた。


のとじま水族館だ。初めて訪れる水族館でほっこり嬉しくなる。


すごく楽しかった。やっぱりさっきまでの悩みなんて小さなことだったんだ。今を楽しむ。これだけでいい。

その後は宿に上がり込み、メカトラの原因調査をする。一つの電池は確かに充電切れだった。

もう一つの電池は…

固定用の爪が折れていたのだ!!

フロントとリアの電池交換の際に、焦りからかポッキリ折ってしまっていたようだ。爪がなく、電池の接触不良で動かなかっただけ、というお話。それなのに、不安いっぱいで気分が落ち込んでいた。わかってしまえばなんてことはない。


コンビニで接着剤を買ってきて、くっつけた。

残念なことに、電池の充電器を持ってきていなかったので、復活したのは1つだけ。それでも1速→11速に進化したので充分だ。ひとまず一件落着。よかった。

安心した僕はぐっすりと眠りについた。


このツーリングでは、学ばされることがほんとうに多かった。この時は、ロードバイクを始めて、1年ちょっとだったし、まだまだロングライドに慣れていなかった。さらに使い慣れない機材だったため、不調が出てしまうとすごく焦ってしまった。

さとるくんの存在には、すごくすごく助けられた。励ましてもらえ、バイク交換までして、なんとか楽しい旅にしてくれようとしていた。トラブルを楽しむ姿勢は、彼から学べた。いい友人をもったものだ。

この経験から、今ではたいていのトラブルには動じなくなったし、楽しめるようにもなってきた。このときの深い失望に比べれば、他のトラブルなんて大したことがないと思えるからだ。

本当は封印しておきたかった話だけど、自分の過去と向き合うために今回こうして書いてみた。正直、読者さんのためになっていない気がする。けど「こんな経験することもあるのか」と感じてもらえればうれしいかな。

この能登半島ツーリング編は、もう少しだけ続くよ。ぜひ最後まで読んでみてね!!

つづく

能登半島ツーリングのまとめ!
・準備編
・1日目:砂浜国道には気をつけろ!
・2日目:移ろいゆく日本海に感激してきた
・3日目:目指せ!最北端の地!
・4日目:ロードバイクが嫌いになった1日←イマココ
・5日目:旅はやめられない…!